【おうちで中川一政美術館】vol.3 中川一政 油彩「向日葵」(1977年)
2020.5.2
現在、真鶴町立中川一政美術館は、新型コロナウイルス感染症予防対策のため休館させていただいております。開催中の展覧会「中川一政のことばと創作-詠み、書き、描く-」も中断を余儀なくされておりますが、臨時休館期間中、ご自宅でも中川一政画伯の芸術世界を楽しんでいただけるよう、当館イチオシの所蔵作品を紹介していきます。
第3回目は、中川一政《向日葵》(制作年:1977年、油彩/キャンバス、サイズ:100.0 ×80.3cm) をご紹介します。
中川画伯が生涯でもっとも多く描いたのは薔薇を主題にした絵でしたが、同じく好んで描いていたのが「向日葵」の絵でした。外に描きに行くのが大変だった夏の暑い時期、アトリエの庭に植えた向日葵を摘んで壺に生け、何枚もの静物画を描きました。
本作は、昨年度の第2回テーマ展示「中川一政美術館名品展 あなたが選ぶこの一点!」の会期中(9/14~12/3)に行われた投票企画「あなたが選ぶこの一点!」で第2位に選ばれた作品です。
夏の太陽を感じさせるような大輪の向日葵の花が勢いよく描かれ、花の周りには大きな緑色の葉っぱが大胆に配置されています。背景は茶系の絵の具で塗り込まれており、花や葉、花を生けたカラフルなマジョリカ壺とのコントラストが際立った一枚に仕上がっています。
中川画伯は絵のモチーフとなる花を、自身がコレクションしていた壺に生け、描く対象を観察しながら写生することにこだわりました。
花の静物画は風景画とは対照的に制作のスピードがとても速く、20号~30号サイズの作品だと4~5日程度で描き上げていたと言われています。
このスピード感は、花の「いのち」が関係していると考えます。花は美しく咲き、やがて枯れていく運命にあります。画伯は花の静物画を描く時にそのことを意識していたのではないでしょうか。とりわけ、向日葵は壺に生けて長持ちさせることが難しい花であり、1日描いただけで花や葉が萎れてしまい、構図が変わってしまうこともしばしばあったようです。
しかしながら、画伯にとってはどの花も大切なモチーフとなりました。画伯は美しく生き生きと咲いている花だけではなく、枯れていく花の様子も描き込んでおり、生命力溢れる作品を数多く生み出しました。
さて、向日葵の絵と聞いて多くの人はオランダ出身の画家ゴッホ (Vincent Willem Van Gogh: 1853-1890年) が描いた「向日葵」を思い浮かべることでしょう。
若かりし日の中川画伯もゴッホの「向日葵」に心を突き動かされた一人でした。また、独学で画家を志した画伯にとって、同じく独自の手法で絵を描いていたゴッホの存在は大きな励みになったそうです。
当館ではここ2年ほど美術館駐車場の一角に向日葵の種を撒き、向日葵畑をつくっています。画伯が描いた大輪の向日葵のような花を咲かせることは一筋縄ではいきませんが、画伯の「向日葵」とともに来館者の皆様にお楽しみいただいております。
(真鶴町立中川一政美術館 学芸員 加藤志帆)