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【おうちで中川一政美術館 】vol.4「マジョリカ壺」

2020.5.7

[掲載作品](1)「マジョリカ縦壺(天使)」制昨年不明、口径9.8×高さ24.4cm (中川一政コレクション)
(2)中川一政 岩彩「百合と天使の壺」制昨年不明、紙本/着色、40.0×53.5cm   ※(1)(2)ともに当館所蔵作品

 

 自宅にいながら中川一政画伯の芸術世界をお楽しみいただける連載企画「おうちで中川一政美術館」、第4回目は中川画伯の静物画に描かれている「マジョリカ壺」について紹介します。

 

 中川画伯の花の静物画を見ると、必ずと言っていいほど花が壺に生けられ描かれていることに気づきます。ユニークなデザインの壺が多く、来館者の方からは「この壺は中川画伯が考えたデザインですか?」「中川画伯が作った壺が描かれているのですか?」といった質問をしばしば頂戴します。
 

 作品に登場するこれらの壺は、中川画伯自身が収集した品です。ペルシャ壺、李朝白磁壺、パブロ・ピカソがデザインした壺など、古今東西の壺がモチーフとして描かれていますが、画伯がとくに愛好していたのが、カラフルな絵付けが施された「マジョリカ壺」でした。

 

 「マヨリカ」(Maiolica) とも呼ばれるこの焼き物は、15世紀~17世紀頃にイタリア中部地方で盛んに作られた施釉陶器です。器面には、植物文様や幾何学文様、人物、動物、聖書や神話、歴史の一場面などが5~6色の顔料を用いて描かれています。図柄は当時の絵画・版画からも影響を受けており、絵画的な陶器である点も特徴のひとつです。

 

 14世紀頃までは食事用の皿や貯蔵用の壺など、実用陶器として生産されていたマジョリカ陶器ですが、ルネサンス期になると調度品や観賞用陶器として人気を集めるようになりました。また、婚礼・出産時の儀礼品・贈答品としても広く流通していました。

 

 中川画伯は2種類のマジョリカ壺を好んで描いています。一つは、塩や油を貯蔵するために作られていた丸みのある壺(ボッチャ)です。もう一つは、縦長でくびれのある壺(アルバレッロ)です。これは、修道院や薬局で薬草や香辛料を保存するために使われていました。この名残なのか、イタリアでは今でもショーウィンドーや店内にマジョリカ壺を飾っている薬局が存在します。
 

 また、多くのマジョリカ壺の側面には、古代風あるいはルネサンス風の装束を纏(まと)った人物や、キリスト教の聖者、天使などが描かれています。画伯はこれらの壺に描かれた肖像や装飾文様を大胆にデフォルメし、作品の中に描いています。

 

 薔薇や向日葵といった洋花は花そのものが華やかであるため、一緒に描く壺はシンプルなものを選びたくなるのでは…。と思いますが、中川画伯は 「マヨリカは南国的で陽気で、暖か味がある。精巧な作物より油絵材料として少しラフな方がよい。」(原文ママ・中川一政「マヨリカの壺」『中川一政全集』第八巻』より) と考え、敢えて色鮮やかなマジョリカ壺を静物画のモチーフに選んでいたようです。

 

  当館では、画伯がコレクションしていたマジョリカ壺を10点所蔵しています。静物画とともに展覧する機会を設けておりますので、ご来館の際にはぜひ絵の中の壺とともにご注目ください。

 

(3)「マジョリカ壺(男)」制作年代:16世紀~17世紀、口径13.3×高さ25.7cm (中川一政コレクション/当館所蔵作品)

 

(真鶴町立中川一政美術館 学芸員 加藤志帆)