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【おうちで中川一政美術館】vol.5 中川一政 油彩「薔薇」

2020.5.13

[掲載作品]中川一政《薔薇》制作年不明、油彩/キャンバス、サイズ:72.7 ×60.6cm(当館所蔵作品)

 

 自宅にいながら中川一政画伯の芸術世界をお楽しみいただける連載企画「おうちで中川一政美術館」、第5回目は油彩画《薔薇》を紹介します。
 

 本作は、昨年度の第2回テーマ展示「中川一政美術館名品展 あなたが選ぶこの一点!」の会期中(9/14~12/3)に行われた投票企画「あなたが選ぶこの一点!」で第3位に選ばれた作品です。
 

 中川画伯は生涯を通じて様々な花の静物画を制作しました。その中でも一番多く描いたのが「薔薇」の絵でした。
 

 本作では赤、ピンク、黄色、白の大輪の薔薇が壺にのびのびと生けられています。背景は青色を基調とし、薔薇の色味とのコントラストが際立っています。とくにピンクと赤の花に目を奪われます。壺はやや左に配されどっしりと描かれ、花々は画面右側へと傾いています。

 花が生けられたマジョリカ壺を見てみると、壺の中央にはヘルメットのようなものを被った鋭い目つきの人物が描かれています。この人物は古代の兵士がモデルと言われています。中川画伯はこの壺を頻繁に花の静物画に描いていますが、作品によって兵士の表情に変化がみられ、描く対象である壺や花と対峙した時々の画伯の心情が表れているのだと考えます。
 このように、壺に注目するだけでもとても面白く中川画伯の絵を鑑賞することができます。
 

 また、本作が金縁の額に収められている点も鑑賞者の眼線を惹きつける一要素になっていると感じます。中川画伯は自らデザインしたオリジナルの額縁を好んで作品に組み合わせていましたが、金縁の額もまた画伯の華やかでダイナミックな薔薇の絵と調和しているようです。
 

 画伯が薔薇の絵を描くようになったのは、「薔薇は四季咲きでいつでも描くことができる」と画商に勧められたことがきっかけだったそうです。ですが、描いているうちにどんどん制作にのめり込み、やがて「生きている画」や「いのち」を描くことを追求するようになりました。その変化は作品にも表れるようになり、絵の中から花や壺が飛び出してきそうな大胆な描写やアンバランスな構図、勢いある筆運びが展開されるようになりました。
 

 なお、本作は当館開館時に発刊された「中川一政美術館図録Ⅰ」の1ページ目に掲載されている作品でもあります。この図録は中川画伯自ら編集を手掛けていることから、今回紹介した「薔薇」の作品は、画伯にとって思い入れのある一点だったのではないでしょうか。
 

 現在、制作年は不明となっていますが、図録には1986年作との記載も残っています。晩年の作品であることは確かですが、今後、美術館では所蔵作品の制作年の断定も進めてゆけたらと考えています。
 

(真鶴町立中川一政美術館 学芸員 加藤志帆)